さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

123 どれだけお人よしなんだ!

 みなさん、こんにちは。

 

 先日、現場で休憩していると、そこにいた大工さんが神妙な顔つきで、「確か空手やってたよね?」と聞いてきたものですから、「一応、道場に名前はあるけど、基本的に飲み会要員みたいなもんですよ」と答えたら、「ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど、いいかね?」といつもとは別人のようなしゃべり方に戸惑いながらも「どうぞ、私で役に立つとは思えませんが、なんでも言ってみて!」と話を聞いてみました。

 話はその人の息子さんのことで、彼は私とは違う流派の空手道場に通っていました。違うといても、実践空手ではありますので、ある程度の事情は理解できるんですけど、基本的に空手がどうのこうのという話ではありませんでした。

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 小学校の頃から通い続けていた大工さんの息子くんは今高校三年生で、来年は大学に行く予定だそうです。ですから、今までのように空手はできなくなりそうなので、この際黒帯を取っておきたいと思い、師匠に相談したそうです。そのお師匠さんも早く昇段審査を受けてほしかったようで、これを快諾。後は年明け早々に行われる昇段審査で10人組手をやり遂げれば晴れて初段を許されます。

 長年空手をやってきて、大会にもぽつぽつ出場してたまに優勝したりするほどの腕前でしたが、彼はあまり競技としての空手に興味がないようで、毎週の稽古が楽しいからやっているような感じの子だそうです。なかなかいい子のようです!

 そういう子なので、10人組手などはまず問題なくできるでしょう。あ、10人組手というのは時間が1分半から2分くらいの組手を10人連続で行うもので、その間KOされたり1本とられたり、技ありを2回取られてしまったら失格になります。判定はありませんので、10人連続で引き分け以上の結果が求められます。まぁ、ぶっちゃけた話ですが、相手を務めるのはほとんど有段者ですので、相手が失格にならない程度に痛めつけるわけです。要するにそれに耐えて、フラフラになっても相手に向かって攻め続ければいいんですけど、きちんと稽古していないと、大けがをすることになっちゃいます。ですから、本人が受けたいと師匠にせがんでも、師匠が無理だと判断したら絶対に受けさせません。この辺りはどの流派であってもケガの恐れがあるのでかなり厳しく判断されます。結論として、昇段審査を受けてよし、ということはよぼどのヘマをしたり、当日体調が悪くない限り、ほぼ100%黒帯獲得できるというわけです。

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 こう書くと、なんだ出来レースじゃねぇか!なんていう人がいるかもしれませんが、確かに儀式的なところはありますよ。でも、大工さんの息子くんのように7~8年毎週道場に通って、大会にも出て初めて受けることができることを思えば、儀式でもかまわないと私は考えています。逆に言えばどれだけ体力や技術力に優れていても、入門して1年では絶対に黒帯まで到達できません。これは他の日本の武道にも共通していると思っていますし、良いところだと思っています。

 あ、大工さんの悩みについてでしたね。すみません。すぐ脇にそれちゃいます。

 で、その息子くんが昇段審査を受けるにあたってその流派の代表の許可も取ったそうですが、問題は昇段審査の運営にありました。

 今年の(というか年明け後の)昇段審査の希望者の人数がいつもより多く、予約している会場は半日しか取れていないので、時間内に終わらせるのが難しくなったそうです。まぁ、毎年何人までと制限をしているわけではありませんので、ごくまれにこうしたことがあるようですが、さてどうしたものかとなったそうです。

 通常なら会場をかえて1日借りてしまえば良さそうなものですが、幹部会の話がどうもおかしな方へ行ったようで、同じ日に行う予定の昇級審査を別の日に行う、とか人数を絞るとかいう話が出たようです。会場をかえる話は、どうも借りた人の顔がどうのこうのというつまらない理由で、まったく話し合われなかったそうです。昇級審査なんてごく短時間で終わりますから、意味がありません。結局人数を絞るのかどうかで、会議は紛糾し決着しなかったようです。幹部のほとんどがこれには反対したからです。そりゃそうですよね、もともと人数制限なんかないし、逆に昇段審査を受ける人が1人もいない年だって当然ありますからね。さらに言えば、成長過程の子供にとってそう簡単にじゃあ来年にまわそうかなぁ、とはいきません。

 そこで、その会場を借りていた人(他の支部支部長)は息子くんに直接、来年にしてはどうかと言っちゃったみたいなんです。息子くんは当然混乱し、落ち込んじゃいます。どうして自分が譲らなければならないのかわからないし、代表の許可まで取っていたのに…。と思っているようなんですね。しかも、その人からは自分からそう願い出るようにも言われたそうで、どうしていいのかわからなくなって父親に相談したみたいなんです。

 で、その大工さんに「なんで怒らないの?」って聞いたら「えっ、どうして?」ですって。親子そろって底抜けのお人よしです。まぁ、だからいいなりになると思われたんでしょうね。まだ、師匠にも言ってないそうなので、すぐに相談するように言っておきました。私のような部外者がしゃしゃり出ていい話ではありませんからね。でも、長年稽古を積んできた者と、どうでもいい指導者の顔とどっちが大事なのかをくどいほど大工さんには話しておきました。

 結果は会場は変えず、丸1日借りれる日に変更されたそうです。代表が直々に会場施設の方と話をしてくれたそうで、無事解決しました。さらにその支部長は代表からこっぴどく叱りつけられたそうです。そもそも会議で決まってもいないのに、他所の支部の子に辞退を促すとは何事か!ということでした。当たり前ですよね。

 この支部長はどうも他にもいろいろあったようで、支部も取り上げられちゃいました。件の大工さんは今度はそれに心を痛めているようで、どれだけお人よしなんだ!と私はさらに呆れてしまっています。

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 客観的にみれば比べるまでもないことなのに、こうしたことはしょっちゅうおきます。

 今回の件はこの支部長が間違っていたのは確かです。でも、こうしたことを見過ごしてしまうことはよくあります。そしてそれらはすぐに症状が現れるわけではありません。でも、確実に組織にダメージを与えて続けます。もし息子くんが誰にも言わず辞退していたら、間違いなく都合の良い前例にされたでしょうし、別の問題についてもそうやって処理されるようになるかもしれません。そうしたことが表面化する頃には、空手などの習い事は簡単につぶれちゃいます。

 会社だってそうでしょ。国だってそうです。すべてを清く正しく美しくとは言いませんが、基本的に構成する人たちが常に納得できる形で物事を進めるようにしておくべきです。嘘をつくコツでも申し上げましたが、そうしておきながら、要所要所で人知れず裏技を決めていくのが達人の仕事だと思っています。

 ちなみに、私の空手の師匠のところでも申し上げましたが、私が習っている空手の流派でもいろいろと問題が絶えないようです。入門した時に比べて規模が大きくなりましたからね。私の師匠は面倒くさがりなので、そういう問題に対応したくないようですが、館長がそれに輪をかけた面倒くさがりなものですから、いつもあたふたしています。

 かわいそうだなぁ、大変そうだなぁ、と思う反面「ザマァ」という気持ちが2%くらいあるのを気付いていながら、打ち消したりしない私もダメダメちゃんなのかも…。