さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

120 ロープはちゃんと締めましょう。

 みなさん、こんにちは。

 

 材料を現場に届けることってしょっちゅうあるんですが、軽トラの荷台に置けないような長いものを運ぶときに、ロープを使います。

 このロープって、最も過酷な使われ方をする道具の一つですよね。

 几帳面な人は使い終わったら必ず巻いて、引っ掛けたり箱に収めたりしますが、粗雑な人はポイッと軽トラの荷台に投げてしまいます。こういう人のロープは、ある時は荷物の下敷きになり、零れた塗料はかかるし、泥に汚れても洗ってももらえません。泥が渇くとパリッパリになっちゃうので、何が気に入らないのか地面に叩きつけられたりします。まぁ、叩きつけて土を落とすんですけどね…。

 それにしても、なんてかわいそうなんでしょう。

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 私も仕事柄、木材や鉄筋などの長いものを運びますので、このロープにはいつも世話になっています。しかし、私も気分や、その日の忙しさによっては、ロープを乱雑に扱ったりしますので、人のことは言えませんね。

 で、このロープですが、軽トラで長いものを運ぶときは南京結びっていう結び方を使います。私はアメリカンという名で教えられたんですが…、調べてみたら南京結びでした。この結び方は先っぽの輪っかをフックに引っ掛けて、上の方の荷物を巻き、反対側のフックに引っ掛けるところで使う結び方です。詳しくは動画などを参考にしていただけると助かりますが、要するに引っ掛けて締め付けることができる結び方ですね。最初の会社で教えてもらい、それ以来、ずっと同じやり方をしています。

 結び方っていうのはみんな同じではなく、人によって少しずつ違いがあります。

 そういうのを見ていくのも楽しいんですが、今日お話するのは、その結びが甘かったために起きたことについて、になります。

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 まずは空手の師匠です。フッフッフ、復讐の時が来ましたよ!

 この人は基本的にあわてんぼうでおっちょこちょいです。

 私とは最初の会社の同僚でしたので、いろいろな逸話を残してくれた人でした。

 で、この人がある時、現場にぬき板といって1枚の大きさが9㎝×1,2㎝×4mの板を5枚束ねて運んでいました。結び方は先ほど申し上げた南京結びです。一方を軽トラの助手席の上のあたりのバーの上に載せ、もう一方は荷台のお尻のあたりに載せます。まず助手席の後ろのあたりで一回南京結びをして、荷台のおしりのあたりでもう一回南京結びをして固定します。つまり前後二か所固定することで、安全に運ぶことができます。この時も空手の師匠は二か所固定し、現場に向かったんですが、不意に私の携帯電話が鳴り、「ババァにラリアットしてしもうた!どうしよう」と意味不明なSOSを訴えてきました。一体何のことかわからなかったので、「えっ、おばあさんにラリアット決めちゃったの?なんで、その人なんかしたの?」と何かの拍子に腹を立てて、おばあさんにラリアットを打ち込んだものと思ってしまいました。「違う違う!わしじゃのうて、ぬき板がラリアットしたんじゃって!」「???ぬき板がなんでおばあさんにラリアットするの?」「とにかくちょっと来てくれや、たのむわ」と言うもんですから、しぶしぶ行ってみると、空手の師匠は3~4人のおじじやおばばに囲まれて、何やらお説教されていました。あ~あ、と思いましたが、すぐにハッとして、「けがをした人は」とあいさつもそぞろに、割って入ると「ワシらじゃ!」とおじじおばば。「もうええわ、今度から気いつけんにゃいかんで!」と捨て台詞を吐き、しょんぼりした空手の師匠と何がなんやらよくわからないでいる私を残して立ち去っていきました。道路に止められていた軽トラの荷台には、お尻の方にはきちんとぬき板が固定してあったものの、もう一方は歩道に投げ出されていました。はは~ん、これがラリアットしたんだな!と察しがついたので、師匠に改めて尋問したところ、本人も罪を認めました。

 運転中に上の方からガタガタ音がしたそうで、チラッとバックミラーを見たらぬき板が左右に動いていたそうです。でも、軽トラのお尻の方は動いていないようだったので、現場もあと少しで着くことだし、そのままにしたそうです。そのうちいい感じの右カーブがあったので、ちょいアクセルを踏んでみたら(本人談)、軽トラの前の方が軽くなったような気がして急ブレーキを踏んだけど間に合わず、左側にはみ出したぬき板の束が歩道で井戸端会議をしていたおじじやおばばに直撃したそうです。

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 話を聞いていてくらくらしましたが、で、ケガ人は?ときいたら、誰もけがはしなかったそうです。師匠はひどく落ち込んでいたので、すぐに出発せずに、自動販売機でコーヒーを買って持っていったら、通りがかりのおじさんが笑いながら、「いやぁ、あの年寄どもはよくやったもんじゃ!きれいに並んで木をうけとめたけえのう!おお、ひとり、ババァが飛ばされたのう。いや、それにしても大したもんじゃ」といってまた笑っていました。どうやら、井戸端会議をしながらもぬき板が自分たちに向かってきていることに気が付いて、誰もよけるでもなく並んで受け止めたそうです。2本あるうちの1本を師匠に渡し、もう1本の缶コーヒーをすすりながら、「良くケガ人が出なかったものだ」と、あのおじじやおばばが並んで木を受け止めているところを想像しながら、嫌~な疲れを感じていました。師匠のこの一件は、その後とんかつで買収されたため、私は誰にも言いませんでしたが、飲み会の席で自爆してしまい、部長から大目玉をもらっていました。

 ロープはいくらきちんと締めたつもりでも緩むことがありますから、気が付いたらすぐに締めなおすようにしましょう。

 まだあります。

 この空手の師匠や私が懐いていた先輩で黒川さん(仮)という方がいました。

 明治時代の日本人みたいな体形の私や師匠と違い、長身で手足も長くスマートなイケメンでした。お約束にようにチャラい感じで、なんかいつもいい匂いをさせているような人でした。面白い人でしたよ。

 で、この人も例のぬき板を現場に届けるため、高速道路を走っていました。

 片側2車線の道路でしたが、抜いて行く車が真横で必ず並走しているので、黒川さんも「なんか因縁でもつけられたのかなぁ」くらいに思っていたそうですが、そのうち後ろからもパッシングやクラクション攻撃をされるようになり、何事かとバックミラーを見たら軽トラの後ろの方で煙が立ち上っていました。「あー、エンジンいっちゃったか」とその時黒川さんはそう思ったそうで、とりあえず、ハザードを点け、最寄りのパーキングエリアに入りました。煙が出ているので恥ずかしかったのか、入ってすぐ脇のあたりに停車した瞬間、ボウッと発火。取り乱した黒川さんは持っていた缶コーヒーをかけましたが埒が明かないので、足で踏んだり、つばを吐きかけたりしていたそうです。イケメンでも全く役に立ちません。そうこうしているうちに、近くにいたトラックの運転手さんが消火器で消してくれたそうですが、とにかく大騒ぎになってしまい、会社にも知られるところとなりました。

 まぁ、緩むこともあるからなぁ、と私たちは自分もそうならないように気を付けようとまともなことを考えていましたが、後で聞いたところ、黒川さんは南京結びを知らなかったそうで、ただ、縛ってフックに括り付けただけで走っていたそうです。

 それも高速道路を…。

 よく人身事故にならなかったものだと、背筋が凍る思いでしたが、本人は翌日には気持ちを切り替えたそうで、相変わらずチャラチャラしていました。

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 ちなみに、そのパーキングエリアの舗装の直しを、なぜか私と師匠が命じられ、二人ともプリプリ文句を言いながらやっていたのを覚えています。

 こういうことがあったので、私は長いものをロープで縛って走る時は2点止めをした上に、予備の細いロープまで使うようになりました。よく、職人のおじ様たちにバカにされますが、この話をすると、おじ様たちはたいてい静かになります。