さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

㉝こんな時は変わった人のお話でもしましょう。

 みなさん、こんにちは。

 

 台風10号が近づいています。

 すでにその暴風雨に晒されている地域も出ているようです。

どうか安全第一で鼓動なさいますように。私もそうします。

 被害が出ないよう、心から願っています。

 

 さて、こんな時は変わった人のお話でもしましょう。

 先に申し上げておきますが、ここでお話する方々を私は大好きです。

 嫌いな人の話なんかしても楽しくありませんし。ただ、変わっているというか、現場で作業する人たちっていうのは、ある意味正直で開けっ広げですから。

 今では絶滅危惧種に指定されてしまいそうな方々です。

 

 私が最初に勤めた会社は瓦工事とエクステリア工事の2つの事業を営んでいました。私はエクステリア事業部に配属され、営業・プラン作成・積算・現場管理をすることになるのですが、入社後1年間は現場作業を通して体で仕事を覚えるようにということで現場へ行かされました。正直に言いますと、この1年間が一番楽しかったような気がします。まぁ、責任を負わされていないというのもあったのでしょうが。

 現場でブロックやレンガを積んだり、土間コンを押さえたりするのは外注の職人さんで、私や現場作業員の社員さんは配達や軽作業(軽作業というのは楽な作業ということではなく、高い技術を必要としないという意味)や職人さんの手元(手伝い)をしていました。

 外注の職人さんもたいがい変人ばかりでしたが、今回取り上げるのは社員のほうです。当時は現場作業員を略して現業さんと言っており、会社には4人いました。当時50歳以上の人3人に30代1人という構成です。

 朝、その日の作業内容を聞き、体操してから荷造りし出発します。

 夕方、一旦事務所に寄り、作業日報なるものを書いてその日の仕事は終了となるのですが、口の悪い同僚は、夕方現業さんが事務所に帰ってくると「動物園になる」と言っていました。確かに周りの空気など気にせず大声でバカ話をし、バカ笑いをしたかと思えば急にけんかを始めるといった具合で、傍若無人とはこの人たちのためにある言葉だと確信していました。社長も同じフロアにいたのですが、注意することもなく嵐が過ぎ去るのを待っていたようです。

 この人たちに唯一対抗できるのは事務のおばちゃんたちで、おばちゃんの虫の居所が悪い時には「やかましい!」「・・・」とやってくれましたが、機嫌がいい時には一緒になって騒いでいるのだから、この人が一番のワルだったのかもしれません。

 

f:id:sarukichitail:20201029145829p:plain

 さて、4人の現業さんのうちまずご紹介したいのは東さん(仮称)という方です。

 身長は160㎝未満で中肉ですね。すでに還暦に近い年齢です。以前の仕事は大型トラックの運転手でご自身も「ワシは雲助だったよ」って言っていました。そもそも雲助って何?って思い後で調べてなるほどと納得してしまいました。まぁ、悪い意味での雲助はあまり当てはまらないように思います。別に取繕っているのではありません。非常識ではありましたが悪企をするような人ではなかったということです。(かなり失礼)

 この東さんですが、パンチパーマで喧嘩っ早い性格、そして恐ろしく運転がうまい人でした。会社の飲み会で2次会へ移動中、やくざもどきに因縁をつけられた時には「じゃあ、あんたらの事務所へ行こうか」って自分から相手の車に乗り込もうとするような人でした。あの時から東さんは怒らせないようにしようと思ったものです。でも東さんは怒らないんです。あ、文句はたくさん言われましたよ。私が現場管理をするようになると、段取りが悪い、ミスが多い、ワシを殺す気か等々言われましたが、相手を怖がらせるようなことはしませんでした。

 まだ、私が入社する前のことですが、社員旅行で北海道に行ったそうです。その時に例によって飲み会での喧嘩が発生。その時東さんが「真空飛び膝蹴り」というなんだか漫画に出てきそうな技で相手を病院送りにしたそうです。詳しく聞いてみると、どうも東さんははじめ喧嘩の当事者ではなく仲裁をしていたようですが、一方が言うことを聞かず引かなかったそうで、それに怒って必殺技を繰り出したそうです。被害者は肋骨の骨折。まぁ、たいした事はないでしょう。東さんにお咎めはなかったそうです。

 あと、これは他の3人にも言えますが、仕事ぶりはいたって真面目です。

 東さんは配達が大好きだったみたいで、2t車でブロックやレンガ、砂やセメントを運んでもらうのですが、少し仕事量が多くてもニコニコしながらやってくれます。

 ある日、陸上競技場のスタンドの一部でブロックを積む仕事があり、私も材料搬入を手伝いましたが、階段を上っていかなければならないので大変でした。ブロックを一人2ケずつ手に持って上っていきます。ブロックは300ケ以上ありましたし、その後砂やセメントも運ばなければなりません。作業するのは私と東さんのほか2名の合計4名で行いました。いつ終わるのかわからないような作業というのは人間の心をいとも簡単に折ってしまいます。「休憩しながらでいいよ」と優しい東さん。私と他2名は遠慮なく休憩。東さんは作業継続。飲み物もいらないとのこと。え、なんで?と私は思いましたが、他2名は理由を知っているのか、何も言いません。結局8割程度終わったあたりで応援が来てくれて無事終了。私は東さんのトラックに乗り込み会社へ帰ることになりましたが、トラックは自動販売機の前で停止。東さん嬉しそうにDRY500mlを持って運転席に戻り、エンジンをかけた直後にプシュッ。1分かからないうちに飲み切って、東さんご満悦状態。私はあっけにとられて、「え、え、え」という状態でした。一応おどおどしながらも注意はしておきました。東さんは「あ、ごめんね」と全く悪びれず言っていました。当時は今のような飲酒運転に厳しい罰則が設けられていなかったので、そんなことを再々していたのでしょう。やってはいけないことに違いはありません。

 もともと酒に強いのか、500ml程度のビールではその挙動に何の変化も見られませんが、臭いだけはごまかすことができません。でも東さんはそのまま事務所へ入ります。なぜか知りませんが、事務所内はもうすでに東さんと同じ臭いがしていました。同じく現業の谷口さん(仮称)によるものでした。やれやれです。みんな気が付いているはずなのに、社長はじめ、誰もそのことについて口を出しません。そのうち、仕方ないなぁという感じで部長が一言「あんたら今日もいい臭いがするなぁ」。なんだそれは、きちんと言わないとダメだろ!と思っていたら「やっぱりわかる~」と言って現業のおじ様たちは何がうれしいのか大はしゃぎとなってしまいました。まさに動物園状態です。

 他にもこの東さんは、定食屋で食べた牛スジの煮込みに入っていた糸こんにゃくが1mくらい口から出てきたとか、 1.8mの大バールを振り回して重機のオペレーターを追いかけまわしたとかの逸話を残しています。少し尾鰭が付いているようですが。

 

 話の中に不謹慎な内容があったことはお詫びいたします。

 

 このおじ様たちは、良くも悪くも昔よくいたちょっと下品で正直なおじさんたちだったと思います。喜怒哀楽がはっきりしていて、嘘を付いたり、取繕うところがない代わりに、善悪の境界線が曖昧なところがありました。私は10年近く一緒に仕事をしましたが、やっぱりこのおじ様たちは好きでしたね。

 

f:id:sarukichitail:20201029145850p:plain

 余談ですが、トラックが新車に変わった時の東さんの喜びようはすごいものでした。

 助手席に座る私は青い顔をしています。

 そんな私に「見てよ。シガーライターも新しいよ」と嬉しそうにシガーソケットを抜く東さん。しかしそのシガーソケットには既に誰かが使った形跡が…。

 その新車が届けられた時、東さんは現場にいました。会社の駐車場でタバコを吸おうと思った私は、ライターを忘れていて、ついその新車のシガーライターを…。

 シガーソケットを見て東さんはそれから何も言わなくなりました。

 助手席から降りるまで「すぐ死ぬ!いま死ぬ!」と思っていた私は、解放後生きていることを何となく空を見上げて感謝していました。

 その後、1週間くらい経ってから、DRY500ml×6本を手に東さんにお詫びをして許してもらいました。

 このおじ様たちに謝る時は、少し時間が経ってから、手土産を添えてするのにかぎります。いろいろご無礼いたしましたが、ほぼ100%許してもらいました。