さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

94 ガブリエル戦記3 ~天敵編~

 みなさん、こんにちは。

 

 ガブリエル第3回になります。

 秋が深まり、トノサマガエルにとって厳しい季節になりました。

 はたしてガブリエルは生き残ることができるのでしょうか。

 

 ガブリエル戦記3 ~天敵編~

 

 トノサマガエルなのに、なんで家来がいないんだろう?

 水場に転がっている石の上でふと物思いに耽ってしまった。

 ここは最も安全な立ち位置だ。頭上から襲われても、石の隙間から襲われても水の中に飛び込めばいい。水中ではタガメを1回見かけたが、ヤツらはある程度水深のある所にしかいない。石に囲まれて、水たまり程度でしかないところには絶対に入ってこない。この地に流されてから、地形を把握するのに少々手間取ったが、辛抱強く索敵を繰り返しながら、この地の特性を掴んできて良かった。誰も守ってくれない以上、自分の身は自分で守るしかないし、極力戦闘に訴えない形でやらなければならない。傷を負ってしまったら、待っているのは飢え死にだけだからだ。

f:id:sarukichitail:20201111232856p:plain

 それにしても、寒くなるのに比例して餌が減った。蝶やカマキリは姿を見せなくなったし、コオロギも数が減った。赤とんぼが群れでやってくるが、あいつらいっぺんに来るもんだから、1つの群れに対して1,2匹しか捕まえられないんだよね。できれば10匹ずつ来てほしいんだけど、大体100匹以上で来ちゃうからとっても効率が悪いんだ。おまけに頭が硬いし。まぁ、それでも水場があるので、卵を産みに来るんだろうから、もうしばらくは期待できるかもしれない。あ、そういえば、あいつらたまに2匹がくっついて飛んでるんだよね。なんでかわからないんだけど、すごくムカつく。だから、不必要に襲い掛かっちゃって群れごとどっかに行っちゃうことがあった。狩人の風上にも置けない私だった。う~ん、でも、なんであんなにムカついたんだろう。

 大好物のショウリョウバッタはめっきり来なくなった。時折現れるのはやたらと巨大化したヤツで、なんだかおっかないんだよね。だって、あいつの目って、頭の先っぽにあるんだけど、口はずっと下にある。小さいと気にもならないんだけど、でっかくなるとなんだか他の惑星の生き物みたいで気持ち悪い。それに基本的に私は自分より大きなヤツは食べない、っていうか食べきれない。噛みついてちぎって食べるんじゃなくって、まる飲みしちゃうから。まぁ、そのあたりは狩人として当然のように抑制が効く私なのだ。さて、今日は何を食べようか。こんな時に家来がいてくれたら、こうして石の上に座っているだけで餌を献上してくれるんだろうけど、トノサマなのに孤独なんだよね。

 う~ん、この石の上は安全なんだけど、蝶やトンボじゃないと寄ってこないから、叢の方へ行ってみようか。コオロギでもいいから、来てくれないかなぁ。

 ブツブツ言いながら緑から薄茶色に変わった草の隙間を縫うように移動していると、前の方に何かの気配を感じた。かなり遠くだ。慌てる必要はない。幸い丘の方から落ち葉がたくさん降ってきているので身を隠すことは簡単にできる。それよりも、こんな気配は今までに感じたことがない。背中が渇いてくるような、その上手足が硬直していくような感覚はウシガエルと対峙して以来だったが、それともちょっと違うようだ。何よりその気配の主の姿を捉えられない。そして、ものすごい速さで移動している。距離は縮まっているようだが、こっちにまっすぐ向かってきているわけではないようだ。だが、油断はできない。落ち葉の下で叢の方に向いている私の左側へ向かっているようだ。

f:id:sarukichitail:20201029161751p:plain

 蛇だ。ちょっと長いので、青大将かな。まぁ、マムシでも青大将でも、私にとっては天敵なので、安心はできないが、何をそんなに血相を変えて移動しているんだろう?ヤツらはカエルを食べるとき、憎たらしいほどの余裕を見せる。すぐにかぶりつかず、しばらく身動きがとれなくなっているカエルを睥睨して、気が済んだらパクッと食べる。前の土地にいたときに、私はまだまだ青二才だったので、兄弟(?)たちと一緒にいたんだけど、そのうちの数匹が食べられたのを目の当たりにしていた。そのにっくき青大将が必死で逃げているようだ。え、なんで?…ムムッ、青大将の後ろにもう一つ気配が、大きい!そして鳴き声が甲高い!!ヤツだ、私のお腹をプニプニした小さい人間だ。

 小さい人間は私には全く気付かずに、青大将を追いかけて行った。私の左側にヤツの足が降ってきたときはちょっと焦ったが、それでも20㎝以上離れていた。青大将に気を取られて、小さい人間に気が付かなかったとは、この先私は大丈夫なんだろうか。

 なんか、今日は反省ばっかりだなぁ、と思っていたら小さい人間が帰ってきた!

 さっきより少し離れたあたりを歩いていた。あっ、つい声を上げてしまったが、ヤツには気付かれずに済んだ。どうして声を上げてしまったのかというと、小さい人間の右手が青大将の頭を摘まんでいたのだ。小さい人間は青大将を食べるのかな?かなり強い力で摘ままれているようで、青大将の顔が歪んでいる。ざまあみろ!と思いながら、その一方で私の背中の渇きは続いている。

f:id:sarukichitail:20201111233048p:plain

 小さい人間はおよそ10mくらい離れたところで歩くのをやめた。そして今度は青大将のしっぽを持ってくるくる回し始めたではないか!恐るべき腕力である。青大将がなんか叫んでいるようだがよく聞こえない。いったいいつまで回し続けるのかと思っていたら、小さい人間が何か変な声で鳴いた。青大将がその手から離れていた。投げたのか、すっぽ抜けたのかよくわからなかったが、次の瞬間恐ろしい速さで小さい人間は動いた。どうやら足で青大将を踏みつけたらしい。何と獰猛な生き物だ!っていうか、私はよくお腹プニプニだけで済んだものだ。もう一度しっぽを掴まれた青大将はもうすでに虫の息だった。…食べるのかな?と思っていたら、もう一度激しく回して放り投げてしまった。よりによって私のいる方へ、である。

 やめてくれよ~!と思ったが私にはどうすることもできない。落ち葉に身を隠しながらボテッと落ちた青大将を注視していたが、もう動かなかった。小さい人間は元来た叢の向こうへ歩いて行った。

 散々弄ばれた上に無残に放り棄てられた青大将の骸を眺めながら私はあることに気が付いた。ここは小さい人間の縄張りだったことに。

 私の縄張りなど10m四方のささやかなものだ。大きくて移動力のある生き物の縄張りに比べれば、比べものにならない小ささだ。だから、そういう連中の縄張りの中にうっかりと自分の縄張りを持つことはよくあることだ。しかし、よりによって小さい人間の縄張りの中だったとは思わなかった。我々を簡単にまる飲みしてしまう青大将を弄び、簡単に命を奪ってしまうヤツの縄張りに手を出してしまったのだ。これはえらいことになった。とりあえず、目の前の青大将の亡骸のしっぽのあたりに私の兄弟の敵とばかりにパシパシしてやった。

 パシパシしながら少し考えてみたんだけど、ウシガエルも蛇も少なかったのは小さい人間の縄張りだったからではないだろうか。これまで、豊富な餌、安全な水場という恵まれたこの地に、ほとんどライバルと呼べるものが現れなかったのもそのせいではないか?う~ん、どうしようかなぁ。まぁ、小さい人間に見つからないようにすればいいか。

 そういえば、私はあの小さい人間と渡り合って生き延びたカエルだった。ちょっとお腹をプニプニされちゃったけど、傷も負わなかったし、ある意味お腹によってヤツを魅了していたのかもしれない。うん、そうだ。間違いない。こう見えてもトノサマの名を冠した私だ。小さい人間ごときに後れを取るわけにはいかない。

 なんか元気が出てきたなぁ。元気が出てきたらお腹が空いてきちゃった。

 新たなる天敵が去った以上、この縄張りは私が支配しているのだ。

 とりあえず、何か捕まえて食べようと、落ち葉から這い出て2~3回ジャンプしたら青大将と目があった。もう死んでいるのはわかっているんだけど、動けなくなっちゃう私。

 さっきまでこの地の支配者だったのに、今はコイツに支配されちゃった。

 でも、こいつ死んじゃったから、…ひょっとしてずっとこのままなのかな?

 まぁ、このまま固まっていては話が進まないので、今回はこれで終わります。

 

f:id:sarukichitail:20201029125405p:plain

 つづく