みなさん、こんにちは。
このところ、毒を吐き出すことに夢中になってしまい、ガブリエルのことを忘れていました。まぁ、私としてはスッキリしたので、ガブリエルもきっとわかってくれると思います。
新天地での戦いでも生き残ることに成功したガブリエル。いよいよ冬眠に入ります。実際はもう少し前(11月下旬)の頃のお話になります。
ガブリエル戦記4 ~冬眠編~
なんか最近眠い。寒くなったからかなぁ。寒くなると体も動かなくなっちゃうから困るんだよね。だから、今も落ち葉を掻きわけて暖を取ってるんだ。
もうバッタやコオロギやトンボはいなくなっちゃった。だから、最近はもっぱら土の中のミミズなんかを食べてる。それに土を掘ったほうが寒くないから効率がいい。この時期、うっかり草の先っぽまで登ったりすると、あの狂ったような鳴き声の黒いヤツが空から襲ってくる。他の鳥で、私を食べれるほどのヤツはいなくなったのに、なんでお前はまだいるんだ!って思うけど、言葉が通じないからどうしようもない。それに、ヤツもこのところ腹を空かしているようだ。気を付けなきゃいけない。なんか目がまともじゃないんだよね。いや、普段からまともじゃないんだけど、このところ特にまともじゃない。おかしいのは鳴き声だけにしてほしい。
とにかく、暗いうちは体が動かなくて仕事にならないので、日が昇るまではじっとしてる。体が動かないときに私を捕食するヤツが現れたら一巻の終わりだからね。
以前、青大将が小さい人間にヤられちゃったとき、死んだヤツの顔の前にうっかり着地してしまい、目が合っちゃったもんだからそのまま日が暮れるまで動けなかった。青大将のヤツ、目を開けて死ぬことないじゃないか!少しはこっちのことも考えてほしいもんだ。思い出しただけでも腹が立つ。あ、でも腹が立ったら少し体が動くようになってきた。よしよし、少し移動してミミズでも食べるとしよう。ちょっとお腹が重くなるけど、その分腹持ちがいいし、栄養もありそうだからね。
前に住んでいた草叢で、大人のトノサマガエルが言っていた。冬になり、寒くて体が動かなくなる前にいっぱい食べて寝ちゃうんだと。で、起きたら春になっているって。最近の寒さと体の関係って、そのことなんだな、きっと。だったら、今やらなければならないことは食料と寝床の確保だな。幸いなことに食料の目途はたっている。日が昇る側にある丘のふもとのあたりの土には白い芋虫みたいなのがたくさんいる。実際あいつらのほうがミミズより美味しいし、食べ応えがあるんだけど、あの丘のふもとは青大将とかいたんだよね。1匹小さい人間にヤられたからと言って、もういないとは限らない。だから、出来るだけ近づかないようにしていた。
この地に流れ着いてから学んだことは、他のカエルから臆病者と言われても構わないので、慎重に索敵しながら餌を探し、絶対に危険を冒さず、冒険をしないこと。臆病者だから生き残れたのさ!ってなんか眉毛の太い人間が言ってそうなセリフが、最近私の座右の銘なんだよね。
というわけで、慎重に索敵をしながら、丘に向かって移動した。落ち葉の下を這うようにしての移動なので、なかなか進まないけど身をさらすのは良くないからね。あ、そうだ、この道中に眠るのに良さそうなところも見つけておこう。丘から少し離れたところなら、蛇に見つかることもないだろうし。
そんなことを考えながら目指す丘のふもとまで半分くらいの道のりを這って進んでいたら、聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。ヤツだ!私のお腹をプニプニした小さい人間だ!くそっ、こんな時にあんなのに遭遇するとは!!しかも今いるところはちょうど落ち葉が途切れていて体が丸見えだ。この草叢にはところどころ落ち葉が途切れるところがある。草は生えているものの、茎が黄色くなっていて葉をつけていない。うう~、どうしよう~、あ、目が合った。まずい!うっ動けない!2~3m離れたところで小さい人間はこっちのほうに手を伸ばしていた。手に何か持っていた。パチッと音がしたと思ったら、何かこっちに飛んできた。私の目の前の小石に当たったその物体は丸くて白かった。パチッパチッと音がする度にそれが飛んでくる。明らかに私を狙っていた。またパチッと音がしたと思ったら、背中に激痛が走ったので思わず「いてぇ!」と叫んで仰向けにひっくり返ってしまった。白くて艶めかしいお腹をまたもやこの小さい人間に晒してしまった。恐怖と羞恥と背中の痛みで動けない私。そのうち、もうどうにでもなれ!と投げやりな気分になってきた。すると、小さい人間はこれまでに聞いたことがないくらい大きな声で何か叫びながら何処かへ行った。狂ったのかな?
とにかくこの場所はまずいので、落ち葉の下に潜り込みながら、先ほどの白い物体を手に取ってみた。思っていたよりも軽い。でも硬い。あと2~3発食らっていたら間違いなく動けなくなっていたはずだ。そうなったら、空の狩人の餌食になってしまう。恐ろしい攻撃だった。でも、どうしてヤツは攻撃をやめたんだろう?バカなのか?
一応、落ち着きを取り戻してから対策を練ってみた。小さい人間が現れて、こっちに手を伸ばしたら即ジャンプする。近くに着弾したら当たってなくてもひっくり返ってみせる。うんうん、2段構えだ。これなら何とかなる。ヤツは手の内を私に見せすぎたのだ。攻撃をかわすめどが立ったので、再び移動を開始した。
背中の痛みも引いてきたころ、目的地に到着した。このあたりの土の湿り具合はあの白い芋虫にとってちゅどいいんだろう。べちゃべちゃしていない。このころになると、ひどく空腹になってもいたので、さっそく土を掘ろうと思ったが、いけない、いけない、索敵しなきゃいけなかった。ん?何かいる。あ、アマガエルだ。それも小さい。う~ん、食べちゃおうかな。アマガエルは私から50センチくらい離れた小石の上に座っていた。こっちを向いていたので、なおさら好都合だった。私の体はこやつの5倍くらいあるし、ジャンプ力も顎の力もこっちが圧倒的に強い。最近ミミズみたいなウネウネしたのばっかり相手にしていたから、久しぶりに狩人の血が騒ぐってもんだ。唯一の不安要素は…あ、目が合った。その直後こやつは私に背を向けた。やっぱりそうしたか!これでは襲うことができない!
いったい何がどうしてそうなったのか説明すると、アマガエルには一つだけ私の攻撃をかわせる技がある。まぁ、それがさっき言おうとした不安要素なんだけど、私に後姿を見せる、という技である…。いや、本当だって。アマガエルが物憂げな表情で空を見上げている後姿をみてしまったら、あまりの切なさに襲うことができるトノサマガエルなどいるはずがない。こう見えても殿様なのだ。侘び寂びを知り尽くし、風雅を極めているのである。もっとも、これはトノサマガエルにしか使えない技で、あの無粋の塊みたいなウシガエルには通用しない。
今回は私の負けだ。イライラするので威嚇したらこやつは飛んで逃げて行った。
1勝1敗(一応人間には勝ったことになっている)。まぁ、こんなもんだろう。でも、なんかやっぱり悔しいので、その後日が暮れるまで白い芋虫を食べまくってやった。思えば気の毒なことだよね。芋虫は何も悪くないのに。
お腹がいっぱいになると、眠くなる。日が暮れると寒くなって、体が動かなくなってしまう。仕方がないので、この白い芋虫がいっぱいいるこの場所で眠ることにした。眠い目をこすりながら、落ち葉がたくさん堆積しているところまでは移動して、その下の土をちょっとだけ掘って寝床とした。
…眠る前にちょっと気が付いたことがある。
思えば、今まで食べては寝るを繰り返してきたんだけど、なにかもう一つ大事なことがあったんじゃなかったっけ?う~ん、よくわからないんだけど、何となくモヤモヤするし、このまま眠ってしまうのは良くないような気がしてきた。でも、なんだろう?考えてもよくわからないんだよね。ただ、モヤモヤするばっかりで…。
あー、まぁいいか、次に目が覚めたら考えることにする。本当は好物のショウリョウバッタのことでも考えながら寝ようと思っていたんだけど、お腹いっぱいになったらどうでもよくなった。
それじゃ、おやすみなさ~い。
つづく