さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

167 ガブリエル戦記5 ~番外編1~

 みなさん、こんにちは。

 

 冬眠に入ってしまったガブリエルですが、このままだと3月くらいまで何も書けないので、番外編としていくつか書いてみます。

 よろしかったら、お付き合いください。

 

 ガブリエル戦記5 ~番外編1~

 

 私はトノサマガエル。なんかガブとかガブリエルとか言ってるヤツがいるみたいだけど、そんなの知らない。私は雌のトノサマガエルだ。あ、言っとくけど、トノサマガエルっていうのは雌のほうが大きくて、たぶん強いんだ。

 で、今は冬眠中なんだけど、この話を書いているヤツが、中途半端に間を開けて投稿するもんだから、以前の私を知らない人が多いと思ったので、そのあたりのことを話しておくことにした。まったく、2週間に1回くらいの頻度で書いてくれればこんなことしなくても良かったのに…。

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 私が生まれたのは今住んでいるところじゃない。もっと、こう、人間の住処がたくさん建っているところだった。まぁ、そうは言っても田舎なので、田んぼと半々くらいの割合だったと思う。広さは20m四方くらいの草叢だった。隣にも草叢があり、もうちょっと広かったようだけどいつの間にか人間の住処ができちゃった。

 さっき生まれたところって言ったけど、オタマジャクシの頃は水の中にいたから、何処っていいようがないんだよね。だから、一応トノサマガエルになった所っていうことなんだ。そこんとこ、よろしく頼みます。

 あの頃は一緒にトノサマガエルになった連中がたくさんいたから、それなりに安心だった。それに以前からそこに住んでいたおじさんが優しいトノサマガエルで、縄張りに入っても許してくれたからとっても助かったんだ。このおじさんからは狩りの仕方や敵の攻撃から身を守る方法、巣の作り方や冬眠のことまで教えてもらった。言葉はよくわからないんだけど、身振り手振りで教えてくれたんだ。一緒にいた連中、兄弟っていうのかな?ん?姉妹?ん?まぁ、どうでもいいや。そいつらも一緒に教えてもらった。

 その草叢はどういうわけか虫がたくさんいて、おじさんも兄弟(?)たちも飢えを心配することはなかった。その頃の私はまだ3センチくらいの大きさでしかなかったけど、5㎝くらいはある頼もしくって優しいおじさんと仲間に囲まれて、とっても快適に過ごしていたんだよね。でも、梅雨が終わり、日ごとに暑さを増す中で私の周辺の環境は激変した。

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 その日はおじさんが必殺技を伝授してくれていた。掌と丸い指先を使って相手を叩く技。名付けてペシぺシ…。いいじゃん、別に!この技は自分と同等、もしくはやや大きい相手に使うと効果的で、打撃によるダメージではなく、相手の精神的ダメージを狙う技だそうだ。さすがおじさん、奥が深いゼ!で、ちょうど隣にいた兄弟にペシぺシしてみたら本気で嫌がるので、ほーなるほど!と感心していたら、やりかえされちゃった。すっごく頭にくる!そのうち情けなくなって、もうどうでもよくなっちゃう。これが精神的ダメージか。すごいなぁ、と思っていたら、おじさんが急にけたたましい叫び声をあげた。私も兄弟たちも、それまで聞いたことがないような声だったので、一瞬おじさんに食べれると思い、一目散に逃げた。おじさんはその場に佇んだままだった。やがて「ギャー」なのか「グァー」なのかよくわからない狂ったような声で鳴く黒い鳥がおじさんの前に降り立った。

 おじさんは微動だにしない。怖くって動けなくなっちゃったのかな?草叢に隠れながら、じーっと見つめていると、黒い鳥のくちばしがおじさんに近づいていった。「あぁ、もう駄目だ!」と思った瞬間、なんとおじさんは黒い鳥のくちばしにペシぺシで攻撃していた。「いやっ、それはいくら何でも無理なんじゃないの?」と思ったが、おじさんはくちばしが近づく度にペシぺシを繰り出していた。まさにファイターだった。自分より何十倍も大きい相手にひるむことなく、必殺技を繰り出し続けているんだからね。しばらくの間、おじさんの攻撃の意味をはかりかねているようだった黒い鳥は、突然目を血走らせておじさんを咥え、飲み込んでしまった。

 黒い鳥は依然として目を血走らせたまま、辺りを睥睨していたが、最後にちょっとだけバツが悪そうに首を振った後どっかに飛んで行った。その後、すぐに草叢から出ないで、周囲を索敵した後、現場に戻ってみた。兄弟の1匹が死んでいた。黒い鳥の足に踏まれたんだと思う。おじさんが逃げないで、ペシペシまでしていた理由が今になって分かった気がする。跳躍力なら私の倍以上のおじさんが逃げられないわけがないのに、どうして戦う方を選んだのか。こいつが逃げ遅れたからだったのか…。

 あ、一応言っておくけど、私たちは同胞の死には慣れている。梅雨が明けるまでの間に何匹もいなくなったし、実際にこの土地にいる猫に弄ばれて死んじゃった兄弟もいた。だからおじさんに訪れた突然の死を目の当たりにしても、特別に動揺することはないんだ。薄情と言われても構わない。そのためにたくさん生まれて、生き残った者が新しい命を残すんだから。ん?でも、どうやって新しい命を作るんだ?肝心なことをおじさんは教えてくれなかった。う~ん、なんかモヤモヤする。まぁ、いいや。

 それよりおじさんの今回の行動なんだけど、教え子でもある同胞を助けようとしたのか、足で踏みつけている黒い鳥に腹を立てたのか、私にはわからない。おじさんの教えから考えれば、絶対やっちゃいけないことだからね。あれが小さな蛇だったら、しっぽにペシペシしたり、周りでギャーギャー喚いてみたり、目の前で睨みつけようとしたものの、やっぱり怖くって動けなくなったりして…、まぁ、何とかして助けるんだけどね。でも、明らかに勝ち目がない場合は諦めて逃げるように教えられていたんだよね。

 おじさん言ってた。「助けられるのに助けないのはトノサマガエルの恥だ。助けられないのに助けようとするのはカエルとして恥だ」ってね。私たちは虫とか小さいカエルとか食べるけど、他の生き物に食べられる側でもあるんだよね。

 おじさんのことはとても悲しいけど、明日は自分が食べられちゃうかもしれないから、この時はとにかくおじさんが身をもって教えてくれたことを覚えておくことにした。

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 おじさんがいなくなった後、どんどん暑くなっていくこと以外、何も変わらなかった。虫は相変わらず多いので食べるのに困ることはない。さっきも言ったけど、この土地には猫が住んでいたから、私たちを食べる生き物はあまりいなかった。この猫が用心棒でもあり、天敵でもあったんだ。でも、こいつ嫌い!う~ん、何となくだけど嫌い!

 まぁ、いいんだけどね。

 それにしても、暑くなると体が渇いてきちゃうのが面倒なんだよね。カエルって皮膚に水分がなくなると、すぐに干乾びちゃうんだ。だから水場の近くにいなきゃいけないんだけど、この草叢には水場なんかない。その代わり、毎朝小太りの人間(叔父さん、ガブリエルが言ってることだから)が7本くらい植わっている木に水をかけるので、それで賄ってる。あ、そういえば、あの小太りの人間(また、…ガブが…)はあの嫌な猫に食べ物を与えているんだった。だからあの猫嫌いなんだった。今思い出したよ。あいつはお腹が減っていないのにカエルや虫や小鳥を捕まえて死ぬまで弄ぶから。これを書いているヤツとは違う理由で、あの猫嫌いなんだよね。

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 今回、以前住んでいた草叢でのことを全部話しちゃおうと思っていたんだけど、長くなっちゃったから、続きはまたの機会にするね。

 

 つづく