さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

64 ガブリエル戦記2 ~狩人の秋編~

 みなさん、こんにちは。

 

 ガブリエル戦記のつづきを書いてみます。

 ガブリエルとの出会いでは雌だったと書いていました。それは間違いないと思うんですが、何となく雄っぽく書いた方がしっくりいくので、このままでいきます。

 それに、カエルの雌が人間の女性のようなしゃべり方やしぐさをするとは限りませんし…、ちょっと無理筋でしょうか。屁理屈をこねちゃいました。

 まぁ、ガブリエルはガブリエルなんで、それで勘弁してください。

 

 ガブリエル戦記2 ~狩人の秋編~ 

 

 4回も死を覚悟したあの日以来、私は充実した日々を送っている。

 心配していたウシガエルもあれから見かけないし、赤茶の救世主も見ていない。私のお腹をプニプニしていた小さい人間もあれから現れていない。時折黒い鳥が間抜けな声を上げているようだが、何しろ個々の草は背が高いので、あんな血走った目では私を見つけることなどできるわけがない。

 あの日、死線を切り抜けながらここへ辿り着き、その後は食っちゃ寝食っちゃ寝を繰り返してきた。日の昇る方向の叢はどこまで続いているのかわからないが、反対側の水場の近くで待ち伏せていると、エサが向こうからやってくる。バッタ、コオロギ、蝶、カマキリ、トンボ等々実に様々で私を飽きさせることがない。寝床は堆積した落ち葉があり、湿り気も温度も実に調度良い。

 不思議なのは蛇やウシガエル以外のカエルが現れないことだ。

 このことは常に気になっている。草が生い茂り水場もあるし、人間も近くにいないような環境は、彼らにとってこの上なく整った環境なのだ。この謎はいつか解き明かされるかもしれない。その時まで、私が生き残っていられたら良いのだが。

 

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 さて、柄にもなくしんみりしちゃったんで、狩りでもして気分を盛り上げていこう。

 狙っているのはコオロギかバッタだ。基本的にあいつらが一番美味い。以前も話したことがあるような気がするけど、ショウリョウバッタが最高なんだ。味、歯ごたえ、呑みごたえ、ボリューム、あらゆる点でAランクの獲物だ。はっきり言って、あいつらだけでもいいくらい!次点は小振りなコオロギかな。柔らかいし、捕まえやすいからね。やっぱり苦労して捕まえるんだったら、ちょっとでも大きいほうがいいんだけれど、楽々狩れる獲物はちょっと小振りでも構わないよ。私の舌だって、いつも調子がいいわけじゃないから、ちょっと調子が出ない時にはコオロギ捕って調子を整えることだってあるんだよ。

 逆にあまり食べたくないのはトンボ。頭が硬いんだよね。それに長いもんだから、呑み込むまで時間がかかって大変だ。それと蝶なんだけど、ボリュームがちょっとね。羽根が口の中でかさばるし、変な粉が出てくるし、捕まえやすいのはいいんだけど、アゲハなんかほとんど羽根だから、なんか嫌。

 それと、カマキリなんだけど、あいつら捕まえるのは簡単なんだけど、上半分はいらないんだよね。硬いし。釜が口の中で引っ掛かるし。お腹だけでいいです、はい。

 まぁ、ちょっと贅沢なことを言いすぎたようだ。この地にエサが来てくれなかったら、たちどころに干上がってしまうんだから、過信や増長・傲慢は命取りになりかねない。さっき言ったことは聞かなかったことにしてください…。

 そうこう言っているうちに、コオロギがやってきたようだ。あいつらが仕留めやすい(エサを前にさっき言ったことをもう忘れている)理由の一つが比較的地面の近くを移動していること。トンボやバッタや蝶は草の天辺のあたりをうろついているので、これと決めた草にあらかじめ登って待ち伏せなければならない。空を飛ぶ獲物は草に羽根を下ろす瞬間こそチャンスなのだ。で、今は草の根元のあたりで枯葉に紛れながら息を殺している。コオロギだってバカじゃないから、私の気配は察しているはずだ。そう思って狩りをしなければ獲物の動きに対応できない。やがてコオロギは私からおよそ10㎝くらい離れた草の葉の上で動かなくなった。私がいる枯葉から7~8㎝上方だ。あと少し、あと1~2㎝距離を縮めたい。だが、私の方から動くわけにはいかない。コオロギは不安定な葉の上を実に細かく足を動かしてバランスをとっている。5分くらいたっただろうか。未だに距離は縮まらないが、コオロギはさかんに触角をいじり始めた。「緩んだな」と直感した私はおもむろに必殺の舌を伸ばす。狙いは頭から胸のあたり、お尻の方だと逃げられる恐れがある。舌が届く直前にコオロギは私の攻撃に反応していた。だがもう遅い。頭から前足もろとも舌に抱き込まれて藻掻く暇も与えず口の中へ吸い込んだ。ウム、まずまずの狩りだった。

 だが、私はコオロギが一瞬反応したことについて考えずにはいられなかった。以前は舌に抱き込まれてから慌てて暴れていたものが、今では直前にその気配を察知するまでになっている。少しずつ気温が下がるにしたがって、たくさん食べておかなければならないような気がするんだけど、この調子だと、今後の狩りは今まで以上に難しくなりそうだ。気を引き締めて望まなければなるまい。

フー、気を引き締めたところで水浴びでもしようかと、水辺へ向けて2回ジャンプしたところで異変に気が付いた。

 叢から石が転がっている水辺に近づくにつれて、草の密度も高さも低くなる。そして、一番草近くの石の上に1匹のトノサマガエルがいた。

 大きい。私もこの界隈で2か月余りを過ごし、6㎝を超える身長まで巨大化したが、奴の体躯ははるかに大きかった。雌だな。あ、そういえば私も雌だった。まぁ、この際それはどうでもよい。問題は私の縄張りにやってきておきながら、まるで奴のほうが10年前から住んでいます、という風情で佇んでいることだ。何という厚かましい奴だ!

 私の闘志がみなぎるのと同時に奴はその大きな口を開けて威嚇してきた。

 出ていかないと、噛んじゃうぞ!ってことなんだろう。自分より体が小さいカエルだからと軽くみたのだろう。だが、奴は知らない。私が人間とも互角に渡り合ってきた地獄帰りのトノサマガエルだということを(ただ、お腹をプニプニされてただけなんだけど)。ウシガエルに比べても貧弱なその威嚇は、かえって私に冷静さを与えてくれた。

 次の瞬間私は奴の頭上を飛び越えるようにジャンプした。奴は誘われるままに口をあけながら私に向かってジャンプした。「かかったな!」私の純白のお腹に嚙り付こうとする奴の眉間に私は渾身の右パンチをくれてやった。まぁ、実際には指先の丸いのがペシッと当たっただけなんだけど…。そのまま我々は着地。奴は私に尻を向けている。すかさず距離を縮めて奴の腰のあたりにもう一度ペシッと右を叩き込んだ。

 一体何がおきたのか、奴には理解できなかったのではないだろうか。私に尻を向けたまま動かない侵略者の尻にとどめのペシッ。その途端、奴は水の中に飛び込んで、そのまま流されていった。結果的には完勝だが、私自身薄氷を踏む思いだった。

 そもそも、我々の世界では体の大きさは圧倒的なアドヴァンテージなのだ。体が大きいほうが当然噛む力も強い。噛み合いになれば、こっちが分が悪いのは明らかだ。だからあえて意味のない攻撃をすることで、心理戦に持ち込んだのだ。ほれ、古代中国の兵法家も言っていたではないか「敵の心を責めるのが上策だ」と。思いのほかうまくいったようだ。うんうん、良かった良かった。

 その後水中に潜り、火照った体と心を冷やしてから、叢に戻った。

 もちろん、常に索敵を怠らない。これ絶対に大事。

 異常がないのを確認してから落ち葉の下に隠れ、今後のことについて考えた。

 獲物は経験値が高くなってきており、今後の狩りは今までより厳しくなりそうだということと、ウシガエル以来初めてカエルが現れたたこと、そして今後も縄張り争いは激化するであろうことだ。あともう一つ、なんだか寒くなるにつれて体の動きが悪くなり、妙に眠くなるので、このまま気温が下がり続けるようなら、長期の寝床を探してかないといけないな、ということも考えた。

 さて、明日は草の天辺のあたりに陣取って、久しぶりにショウリョウバッタを狙ってみるか。あれ美味しいし、大好き。

 でも、最近あのバッタ、なんだか大きくなってきたんだよね。ひどい奴になると、私より大きいし。どうやって食べようかなぁ。

 とりあえず縄張りを守り切った安堵感と、ショウリョウバッタへの食欲を抱きながら今日のところはこれでおやすみなさい。

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 つづく