さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

④「ガッ、ガブリエル!」私は頭の中で呟いていました。

 みなさん、こんにちは。

 

 先日叔父の土地の草刈りをしたのですが、草刈り機の円盤状の刃を新しいものに交換したところ、久々の快感を伴う切れ味。これは、毎回のことで別に驚くことではありませんし、刃を変えた時点で当然予想していたことです。でもやっぱり気持ちいい。

 切れなくなると草に対して刃が滑るので、なぎ倒すような格好になります。そのため草刈り機を同じところで何度も振るようになり、イライラするし疲れます。それが新しい刃だと草に触れるか触れないかのところで草が切断されます。かる~く振るだけでその界隈の草がきれいに刈られていく姿と、軽く滑らかな手ごたえが私の脳を刺激して、やがてとろけるような快感をもたらすのです。…なんか変態っぽいですか?

 でも、よく切れる刃物を使っているときって本当に気持ちがいいものです。

 

 草を刈る叔父の敷地は70~80坪くらいの広さと思われます。

 所要時間は1.5~2.0時間くらい。結構時間がかかります。

 私があまりうまくないことも原因でしょうが、理由は他にもあります。

 まず、7本くらい植木が植わっていること。そして地面が凸凹であること。

 植木の生え際の草を刈るのは手間がかかります。闇雲に草刈り機を振り回すと植木の幹を傷つけてしまいます。よってここは手で抜くようになってしまいます。

 さらに地面が凸凹していると草刈り機の刃が地面に入り込んだり、草の上のほうを切断したりで何回も同じところを何度も刈るようになってしまいます。

 そういうわけで、準備、作業、休憩、片付けでほぼ半日かかってしまいます。

 夏の暑い時期はとりわけ早く終わらせたいものですが、そうした時に上で触れた刃の交換イベントがおきますと、効率が上がるのでやる気も湧いてくるというものです。

 

 先日の草刈りがまさにそれで、気分よく作業を進めてたところ、終盤にかかったところで事は起こりました。まさかこれほどまでの敗北感を味わうことになろうとは…。

 前日雨が降った関係かもしれませんが、当日の叔父の敷地にはバッタやカエルなどがウヨウヨしていました。普段はあまり気にしませんが、この日はちょっと多かったように思います。草刈り機の円盤状の刃が草を切り飛ばす度に慌てて飛び跳ねるバッタやカエル。おそらく見えないところでは若い(?)命を草場に散らしたものが数多くいたことでしょう。草刈りをしたところには雀などが群がって降りてきます。最初はなぜかわかりませんでしたが、どうやら草がなくなったことで虫をとらえやすいことと、傷ついた虫ならいとも簡単にとらえられるからのようでした。まるで戦場のハゲタカのようです。草刈りとは非常な業であり、彼ら(あ、バッタやカエルです)にしてみれば、自らの生命を脅かす悪魔のような所業なのです。

 でもやりますよ。謝礼欲しいし、ぐずぐずしていると叔父に文句を言われてしまいますから。そういう意味でも悪魔の手先の私なのです。

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 さて、悪魔の手先になったことだし、あと少しで終わるので張り切っていこう!と思っていると、1匹のカエル発見。おそらくトノサマガエルでしょう。体長5~6㎝薄茶色(ほとんど灰色)に黒い斑点がありました。後で調べてみるとおそらく雌だったようです。しかし、その時の私にそんなことを考える余裕はありませんでした。草刈りは刃を車のワイパーのように左右に振りながら前進して行います。左方向に草を薙ぎ払った時私の前方やや左よりに佇むカエル。あっ、と気づいたときには振り子のように右に刃を振ろうとしていました。一定のテンポで動いているので止められません。いや、悪魔の手先としては止める意思などそもそもなかったのかもしれません。草刈り機の交換したばかりの刃が彼を切り裂こうとする刹那、タイミングを見計らったかのような飛翔。パサッと私のすぐ左側へ着地。その美しい躍動は私の脳内で何度もスロー再生されていました。「ガッ、ガブリエル!」私は頭の中で呟いていました。そう、私の中で彼はガブリエルという名を冠したのでした。(たぶん雌だけど…)この辺りがこの日一番私の脳が活発に動いた時だと思います。直後に私は必殺の攻撃がかくも美しくかわされてしまったことを認めなければなりませんでした。

 その後、ガブリエルは2回飛翔し、私の後方約1mの付近で動きを止めました。敗北者として戦場(?)に立ち尽くす不甲斐ない私を嘲笑うかのように。勝ち誇るガブリエルを敗者として卑屈になってしまった私が仰ぎ見る構図になってしまいましたが、ここで私はある重要なことに気が付きました。ガブリエルが佇む地点は私の後方、すなわちそこはすでに草を刈った状態になっていました。炎天下で刈られた草はあっという間に水分が蒸発し、シナッとしてきてやがてカサカサになります。つまり、ガブリエルは自ら灼熱地獄にその身を投じてしまったのです。また、身を隠すものがない以上、猛禽類(雀ですが)の襲撃を受ける可能性もあります。(雀がカエルを捕食するのか知りませんが)

 私はこのことをあえてガブリエルの失策とは考えず、私の無意識下での戦略の勝利ととらえました。自分でも気が付かないうちに相手を死地に追いやることができた。これほどお得なことはありませんしね。今や立場は完全に逆転し、絶体絶命のガブリエルなのです。

 ところが、ようやく悪魔の手先としての自信(?)がよみがえってきた私に、ガブリエルはそれらを根こそぎ奪い去るような行動に出ました。彼は向きを90度変えて再び飛翔を開始しました。目指す先には、「あっ溝が!」 そうです。ガブリエルは座して死を待つことを潔しとせず、灼熱による苦痛も猛禽類の攻撃(雀だけど)も意に介すことなく唯一の勝機であり且つ生存可能な目標に突貫したのでした。その状況把握能力、判断力、実行力、何よりその勇気、すべてにおいて彼(雌ですが)の完勝でした。

 前日の雨の影響でしょう、その時の溝の水位は高く、流れは急でした。しかし、ガブリエルに迷いはありません。5回程度の飛翔の後、ポチャッと急流に飛び込んでいきました。一瞬ガブリエルのおなかの白色が見えたのは、彼(雌ですが)の想定より水流が激しかったのかもしれませんが、そんなことは私にとって何の慰めにもなりませんでした。

 わずか数秒の間に起きた戦い(?)で2度も敗れ去った私。もはやご都合主義的にガブリエルが凄すぎた!などと賛辞を贈る余裕もありませんでした。それでも必死に心の中で「さらばガブリエル!」と唱えていたのは、意地などというものではなく、私の中の浅ましさの表れでしかなかったのかもしれません。

 ガブリエルが去った後の戦場はもはや敗者のうごめく荒涼とした大地でしかなく、雀たちに啄まれている虫たちは、ある意味でその時の私を投影しているかのようでした。残りわずかな草刈りの作業は逃げ惑う彼ら(バッタやカエル)に「はやくにげてよ~、けがしちゃうよ~」などと呟きながら行ったため、予想の3倍くらい時間がかかったような気がします。もはやそこに悪魔の手先としての矜持すらありませんでした。

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 帰宅し、シャワーを浴びて烏龍茶を飲もうと冷蔵庫をあけたところ、「ようこそパラダイスへ」の声。「お前まで私を…」なんだか負け続けの一日でした。

 

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