さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

114 「言った言わない」問題

 みなさん、こんにちは。

 

 少しずつ経済活動が活発化し始めた矢先にコロナ感染者が増加して、またもや自粛ムードが漂う中でも仕事はしなければなりません。しかし、建設業や土木業も影響がないわけがなく、小さくなったパイを取り合う形になっています。

 当然のように、契約金額は安くなり、競争の果てに獲得しても薄利で、とりあえず何もしないよりは…という状況になります。

 そうなってくると、ちょっとしたミスで、雀の涙ほどの利益が消滅することも珍しくありません。これではいったい何をしているのかわからなくなっちゃいます。ミスと言っても、基本的に工事をするにあたって、予想外のことが起きて損害を受けることはとても少ないんですよね。例えば、高価な材料を搬入している時に落としてしまったとします。特注のオブジェとかですね。二人で注意しながら運んでいると、野良犬が急に現れて吠え掛かってきたので、びっくりして落としちゃった、なんてことはまずありません。近くで野球をしていて、打ったボールがオブジェを直撃した、なんてこともまずありません。ほとんど手が滑って落としたとか、建物の壁や天井にぶつけたとか、床に転がっていたものに躓いて転んだとかの理由になります。予防できたはずなのに、工事を管理している者としては、目の前がまっくらになってしまう瞬間です。破損した材料を見つめながら、タイムマシンで壊れる前に戻るか、どこでもドアでその場から最低でも2,000㎞はなれたところに逃げてしまいたくなります。

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 一応保険はありますので、よっぽど高価な材料の場合はそれを使うことで少しは補うことができますが、問題は工期です。工期はお客さんとの約束ですので、お客さんの方に瑕疵がない場合は基本的に施工側の契約不履行になってしまいます。

 「別にわざとじゃないんだから」なんてことは通用しません。そして契約不履行の場合は違約金を払ったり、ひどい場合は工事が中止され、それまでの費用もすべては回収できないことがあります。

 我々の仕事は出来上がったものを売るのではなくって、契約してから現場で作っていくので、工事中(制作中)のアクシデントは、そのほとんどがお客さんの知るところとなりますから、その都度話し合いが必要になります。例えば、お客さんが家具を家具屋さんに注文した場合、工場で職人さんがどんなふうにその家具を作っていてもお客さんはわかりませんよね。くわえタバコでやっているかもしれないし、傷がつかない程度に材料を足蹴にしているかもしれません。家具の完成図を見ながら、その趣味をバカにしているかもしれませんし、アッ間違えたって言って材料の一部を交換しているかもしれません。でも、納期を守り、完成品も打合せ通りならば問題ないわけです。ところが建築現場では、くわえタバコ→工事中断。材料を足蹴→見つかると抗議されたり、不信感を持たれる。図面を見て悪口→知られるとお客さん不快になり、場合によっては職人出入り禁止、または工事中断。間違えたので材料の一部を交換→知られると説明を求められる。…なんか、工事っていうのはすごくリスクが高いですよね。もちろんお客さんは四六時中見張っているわけではありませんので、悪く言えばバレないこともあるんですが、いざ、バレたときはその反動もあってひどいリアクションをされてしまいます。「信頼してたのに~!」って感じです。

 このように建築現場っていうのは、カウンター越しに調理しているところを見られている飲食店のようなもので、本来、作業している人達は張り詰めた雰囲気の中で仕事をしているはず(?)です。エクステリアの工事に至っては、道路から丸見えで隠しようがありませんので、その緊張感たるや、精神崩壊寸前のところで作業しているはず(?)です。はずって書いたのは、実際はそうではないからです。まぁ、それはいいんですけどね。ほどほどでいいんです。今日書きたいのはそのことではありませんし。

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 さて、このようにリスクが大きい建築のお仕事ですが、工事中に起きるトラブルで最も多いのは、前に申し上げた材料の破損でもなく、工事中の不都合な事実(?)でもありません。一番多いのは所謂「言った言わない」問題です。お客さんと請負会社、請負会社と職人や業者、あるいは請負会社内の営業と監督、等々、それらの間でこの「いった言わない」問題が多発します。

 「この前の打ち合わせで、キッチンは変更してもらうようになったはずですが」「えっ、そうでしたっけ。いや、そのままだったはずですが」なんていう話は日常茶飯事です。最近はこうした「言った言わない」問題を予防するために、複写式の打合せ用紙を用いる会社が増えていますが、それはあくまでお客さんと会社の間だけで、監督と職人さんの間ではいまだに口頭でのやり取りですし、小さな工務店では社内でも営業と監督の間で口頭のやり取りが多いようです。さすがに大手は社内でも文書化して連絡し合っているようですが。

 で、この「言った言わない」問題の面倒なところは、解決してもお互いにすっきりしないところです。何しろ問題の根拠もはっきりしないので、解決の根拠なんてあるわけがありません。つまり、どちらかが妥協して折れることで解決が図られます。例えばさっきのキッチンのお話ですが、よっぽどムチャな事でなければ、今後の工事の円滑化を考えて会社側が折れるケースが多いと思います。そうなってくると、予算が大きく崩れますので、その後の工事はとても窮屈な気分で行うようになります。お客さんだって、その後の追加や変更の打合せはちょっとだけ気まずくなっちゃいますよね。

 請負会社と職人や業者の間、または請負会社内での「言った言わない」問題はよっぽどの場合を除いて、おおむね立場の強さによって解決(?)が図られます。とても嫌な話ですが、現実はそんなものです。

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 では、どうしてこんな「言った言わない」問題がおきるんでしょうか?

 この業界に入ってから、いろいろ教えてもらったり考えたりした結果、「復唱しないから」ではないかと思うようになりました。

 あのう、復唱と言っても軍隊のように上官の言ったことを一言一句間違えずに言え、と言っているのではありません。たとえば、「帰りにクリアのコーキング買ってきて」に対して、「わかりました」という人は結構怪しいです。「クリアのコーキングね」とか「クリアだから変性じゃないよね?」というふうに返ってくると自分のお願いが伝わったことがわかりますよね。まぁ、復唱というより、具体的な返事と言った方がいいかもしれません。こうしたことが習慣化して当たり前のようにやっている人は私の経験上、仕事のミスがとても少ないです。反対に「わかりました」という人は、当然良く間違えますので、白色のコーキングを買ってきたりします。また、仕事も独りよがりの考えで進めるので、ミスが多くなります。

 以前勤めていた会社でこのことを散々言いましたが、結局できない(やろうとしない)人はいつまで経ってもミスばっかりしています。これに対して、元々復唱していたような人はさらに徹底しますので、つまらないミスはほとんどしなくなりました。

このことは仕事だけでなく、プライベートでもコミュニケーションをする上でとても大切なことだと思います。あなたの言いたいことはこういうことですね。と確認するのは短期的に話相手の心証を害することがあるかもしれませんが、そもそもその言い分を理解したいから行うものなので、理解してくれる人は必ずいます。それでプンスカ怒っちゃう人とは距離を取った方がいいですよ。こういう人の多くは「一を聞いて十を知れ」とか「そのぐらい言わなくてもわかるだろう」と考えている人が多いですからね。伝える努力はしないくせに、思いどおりにしなかったり、聞き返してくる人に腹を立てるのは、客観的にみるとひどく傲慢で独善的なのが良くわかります。

 ですから、コミュニケーションの達者な人は、さりげなく軽快な言葉で相手の言い分を確認しています。ちょっとしたことですが、仕事でもプライベートでもとても役に立つと思いますので、ぜひお試しください。

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 ちなみにTVでドラマを視ていると、よく考えられた脚本はこの聞きかえし的復唱のセリフが良く出ます。それをしなかった場合、「あれ、こういう事じゃなかったの?」っていう話になることが多いようです。ところが、「わかりました」でそのまま何事もなく進行するドラマを視てしまうと、「こりゃダメだ!」と思ってしまいます。別にドラマの脚本なので、無駄だと思ったセリフは省いているんでしょうけど、こういうのを視て、それでミスなく物事を運べると思う人がいるかもしれないって思っちゃうんです。

 まぁ、いつもの心配しすぎってヤツなんでしょうけど。