さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

96 わが町の「てんぷら」

 みなさん、こんにちは。

 

 練り物が美味しい季節になってきました。

 ん?あ、夏でも美味しいですね。すみません。でも冬は鍋がありますからね。

 やっぱり練り物にとっては冬こそ勝負の季節なのです。

 練り物は魚のすり身にお塩を混ぜて、熱を加えて固めたもので、とてもシンプルな食べ物です。しかし、使う魚によって風味が変わりますし、他に野菜などを混ぜ込むことによって、味、食感がまるで違うものにもなります。

 鹿児島のさつま揚げや福岡の丸天は有名です。私はさつま揚げの方が好きなんですが、それはわが町の「てんぷら」と呼んでいるものにそっくりだからです。そっくりなんていうと、まるでさつま揚げがわが町のてんぷらを真似したように聞こえますね。違います。すみません。

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 わが町のてんぷらは魚のすり身に塩を混ぜこみ、油で揚げただけのものです。稀に玉ねぎの粗みじん切りを加えたものもあります。さつま揚げと決定的に違うのはその大きさです。わが町のてんぷらは直径10㎝以上の円盤状のもので中心の厚みは2㎝くらいあります。大きくて分厚いのがわが町のてんぷらです。これが実に旨い。

 もちろん揚げたてが一番です。子供のころ、父に連れられててんぷら屋さん(このてんぷらだけ作っているお店)に行って、揚げたてをハフハフしながら食べましたが、この世のものとは思えないくらいの美味しさでした。もちろん何もつけません。この味を知ってしまったことが、私にとって幸か不幸かわからなくなるくらい美味しいです。

 そしてこのてんぷらは冷めてしまうと味がまるで変わります。すり身を使っているだけあって、かまぼこに近い食感になりますが、味は甘味が立つようになります。冷たいものはお酒のつまみにすると、とてもお酒が進みます。あ、言い忘れていましたが、熱いと風味が強く出ます。だから、私は暑いほうが好きなんです。

 で、このてんぷらですが、買って帰ったら当然冷めています。ではどうするのかというと、揚げなおします。てんぷら屋さんで作った時には薄茶色くらいで仕上げます。それを持って帰って揚げなおすと、丸天のようなやや濃い赤茶色になります。味は香ばしさが加わった感じ。とても美味しいです。さっきから美味しいって言いまくっていますが、それくらい美味しいんです。

 さらにこのてんぷらは煮物、鍋物に入れると柔らかい食感になり、とても安定感や落ち着きのある味になります。ですから、わが町の冬の食卓には欠かせない一品がこのてんぷらなんです。

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 しかし、このてんぷらを専門で作っているお店はもうほとんどありません。今ではかまぼこ屋さんが作ってるくらいですね。と言いますのも、非常にシンプルな食品なので、魚のすり身の仕入れ値に影響されやすいそうで、それを本業でやっていくのは厳しいんでしょう。かまぼこ屋さんはすり身を大量に仕入れますので、製造コストの面で有利なんでしょう。では、わが町のかまぼこ屋さんがてんぷらの製造を合理的にやっているのといえば、まったくそんなことはなく、相変わらず手で整形して長い箸をもって揚げています。手作業です。出来上がったてんぷらは大きさや厚みがまちまちで、手作り感満点なところも私にすれば魅力的なところです。

 最近スーパーでは丸天やさつま揚げが幅を利かせていて、てんぷらはひっそりと端っこの方に陳列されていることが多いようです。中には置いていないスーパーもあります。とても寂しいことですが、たぶんちょっと高いからなんだと思います。ただでさえ大きくって分厚いのですから、てんぷら1枚で丸天が3~4枚作れそうです。同じ値段で袋に1枚だけなのと、薄いのが4枚入っていたら、何となく4枚の方を選んじゃいますよね。まぁ、わかるような気がします。

 ところで、このてんぷらっていう名称ですが、たぶん昔の名残で、今世の中で天ぷらと呼ばれるものが贅沢だったころ(今も贅沢ですが)、こっちだって油で揚げてんだからてんぷらだいっ!っていう心意気でそう呼んだんじゃないでしょうか?あ、想像で言ってます。こういうソールフード的なものっていいですよね。別に他の地域の方にわざわざ自慢する必要はないけれど、こっちにお越しの際はぜひともおもてなしに使いたい食べ物です。見た目はパッとしませんが、味は間違いありません。むしろ見た目が良すぎると面白くないですからね。

 私の父はこのてんぷらが好きで、それが高じて自分で作ったりしていましたが、どうしてもお店の味にかなわないので、アジやイワシをすりつぶして、野菜のみじん切りと調味料を加え、直径5㎝くらいで厚みが3~4㎝くらいのダンゴをつくっていました。あとは、揚げるか、鍋に入れるか、煮物にするかはその日の気分で決めていたようです。私はこのダンゴも好きだったのですが、父が作ると骨が残っていたりするので、母が作ったものの方が食べやすくて好きでした。

 みなさんの町にもソールフードってありますよね。

 別に名産になる必要なんかないと思いますが、なくなってしまうのはちょっと寂しいので嫌っていう食べ物です。そういうのって、それを食べるといろいろなことが思い出されたりして、とっても豊かな気持ちになったりしませんか?もちろんお酒と一緒ならなおさらグンと効果が上がっちゃいますよね。

 私は父ほどてんぷら狂いになっていませんので、作ったりはしませんが、スーパーでひっそり売られていたら、できるだけ買うようにしています。

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 最近よくやるのは、一口大に切って、レンジで温め(油を使うのが面倒なので)、わさびを付けるだけ、っていうのです。オーブントースターで温めると皮が硬くなり、香ばしさが増します。私は柔らかめが好きなのでレンジ派ですね。

 さつま揚げでやっても美味しいですよ。

 ぜひ、お試しください。