さるきちのしっぽ

おサルのおつむでゆる~くお話ししますので、よろしければお付き合いください。

㊼そろそろ、現場のおじ様たちが動き出します。

 みなさん、こんにちは。

 

 涼しくなり、日向で作業をしても気持ちよく汗をかけるようになってきました。

 そろそろ、現場のおじ様たちが動き出します。

 今年は大雨の後、酷暑、そして台風という感じで、そこまでしなくてもいいじゃないか!と言いたくなるような夏でした。その間おじ様たちはあと5分したら干からびてしまうような顔をしながら必死に水分をとっており、休憩中は話をするのも億劫なようで、ひたすら無言で耐えていました。

 それがどうでしょう。涼しくなると10時と3時の休憩では、これでもかっ!ていうほどのお茶菓子を用意してきます。飲み物も当然お湯を沸かしてコーヒーや煎茶を飲みますし、その他2~3種類のジュースもクーラーで出番を待っている状態。最近では安い電子レンジを持ち込んで肉まんの提供まで始めています。あんたらいったい何しに来たんだ!と言いたくなりますが、仕事はいたって真面目にするので、なかなか文句が言えません。ただ、おじ様たちにも一応ルールがあるそうで、火は使わないそうです。

 

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 現在、工事現場では禁酒・禁煙が当たり前のように守られています。新築工事の上棟の時もお酒飲まず、持ち帰るのが良いとされています。でも、一昔前は平気で飲んでいました。それもお施主さん(お客さんのこと)が振舞ってくれたお酒です。まぁ、これって文化でしたからねぇ。いまだに高齢のお施主さんは大工さんらにお酒を出したりしますよ。一応表向き断っているようですが、私が現場を離れた後は知れたものではありません。ただ、限度はわきまえているとみえて、のどを湿らす程度にしているようです。まぁ、電気工具を使いますから、危ないですしね。

 タバコに関しては、ある意味世の中のヒステリックな風潮のあおりを受けたようで、一般的に敷地内禁煙としているハウスメーカーがほとんどです。例外として自分の車の中では喫煙してもよいそうですが、聊かやりすぎです。まぁこれは作業中タバコを吸ったり、現場にポイ捨てする輩がいたからなので、仕方ないと言えばそうなんですが、喫煙場所を設けてしまえば済む話だと思うんですけどね。

 私は着工前にお客さんに喫煙場所を設けてそこでタバコを吸ってもらうと説明していますので、今まで問題になったことはありません。もちろん、このルールを破った人には厳罰を科します。支払いの停止、出入り禁止、ひどいときには損害賠償請求します。残念ながら、まれにこのルールを破る人がいますので、見せしめのようにペナルティを科しますが、普段口うるさく言っておけばおじ様たちも守ってくれます。

 ハウスメーカー工務店がこのようにせず、全面禁煙とするのは半分は宣伝目的のような気がします。うちの会社は工事中もクリーンです!みたいな。禁煙賛成派の方は当然だと思われるかもしれませんが、実際にお客さんとお話すると、こうしたことはあまり評価されていません。「そうまでしないと防げないの?」とか「ちゃんと吸っていいところで吸えばいいんじゃないの?」とか、挙句の果ては「何か仕出かしたからそこまでやるんだろう」というお客さんもいるくらいです。

 この禁欲的傾向はタバコだけではありません。10時と3時の休憩前に掃除しましょう。お客様にはきちんとした挨拶と礼儀で接しましょう。ヘルメットと安全帯を常時着用しましょう。ラジオをつけてはいけません。車の中も整理整頓しましょう。作業時間は厳守。清潔感のある服装をするように。そしてひどいところでは、私語厳禁。現場内飲食禁止。発注単価2%減額。という感じです。そりゃ若者が見向きもしなくなるわけです。

 それだけでなく、最近の職人さんは自分で判断しません。判断できないわけでも、正解がわからないわけでもありません。責任を負わされたくないからです。すべての指示は元受けから出ます。その元受けを無視して仕事を進めると、その内容よりも元受けに相談しなかったことが問題になるようです。なり手も減り、そのうち判断できる人もいなくなると、現場は立ち行かなくなります。

 昔は、立ちションするな、くわえタバコするな、酒飲むな、くらいでしたよ。

 現場で働く人はネクタイ締めてデスクワークをしているわけではありません。暑いの寒いの、雨だ雪だ雷だ大風だ、に耐えて働いています。そこへさらに締め付けが厳しくなると、そりゃやってられない!となるのは当たり前です。会社の建前や好印象のためではなく、お客さんや近所の迷惑、作業の安全に絞ってルールを決めたほうが長い目で見たときに良い結果を生むと思いますよ。さらっと書いた発注単価の減額など持っての他です。

 

 ちょっと真面目な話になってしまいました。すみません。

 で、件のおじ様たちですが、昔はかなり破天荒なことをしていたようです。冬に工事用の立水栓が凍結していると、今なら別のところでお湯を沸かして少しずつかけて溶かします。しかし、昔の人はせっかちなので立水栓の脇で焚火をしたり、ガスバーナーで焼いたり(これ今でもする人います)、直接灯油をかけて燃やしたりとメチャクチャです。さらに工事中の建物の中で焼き肉や鍋をするのは当たり前、調子が出てくると近くにいる仲間を呼んで宴会をすることもあったようです。あと、自分が大音量でラジオを鳴らしていたくせに、その音に相棒の声が遮られてよく聞き取れないと、相棒に向かってブチギレしていまい現場を放棄したこともあったようです。意味がわかりません。畑で採れた野菜を配るくらいならわかりますが、昨日釣れた魚さばいて配ったり、猟師さんからもらった猪の肉を切り分けたりと、本当に何をしに来たのでしょう。現場が生臭くなったらどうするつもりだったのでしょうか。

 …先ほどは元受けのハウスメーカー工務店ばかりが悪いように書きましたが、こうして考えてみると、そりゃあひどいものだったようですよね。

 まぁ、今のおじ様たちはかなりおとなしくなったようです。

 で、先ほど今は火を使わないと言いました。少なくとも私が知っているおじ様たちはそうしています。そこで先ほどの電子レンジだけでなく、IH調理器、電気ポット、はては電気炊飯器まで持ってくる強者がいます。仕事道具を下ろした後の車はさながら小型キッチン付きのキャンピングカーのようです。ここまで申し上げれば当然予想が付くと思いますが、タープや折り畳み式のテントを広げ、同じく折り畳み式のテーブルと椅子を設置します。言ってみれば、毎日がアウトドアなのです。

 でも、そんなの気候が穏やかな時だけで、冬になればやめちゃうでしょ、とお考えの方、冬こそ温かいものがおいしいのをお忘れですか。冬は季節風への対策を施してから、おじ様たちは寒い寒いと言いながら味噌汁を啜ってご満悦なのです。

 元受けからの圧力にも負けず、少しでも仕事を楽しく進めようとするおじ様たちの逞しさには頭が下がりますが、こうした家電狂いの職人さんはどちらかというと、腕の良さよりも愛想の良さでこれまでやってきたように思えるところが残念です。まぁ、もちろん人並みに仕事はこなしますけどね。

 

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 先日も予行演習とか言って豚汁を用意したようで、私もご相伴に与りました。車を見るとありましたありました炊飯器。ただでさえ仕事道具にお金がかかるのに、よくこれだけ揃えたものだと感心しながら迂闊にも「こんなもんばっかり買ってたら、なんぼ働いてもひとつも儲からんのじゃない?」と言ってしまいました。大工さんは恨めしそうな顔をしながら私に背を向けるように少しだけ体をひねって「だったらもう少し発注を高くしてくれてもいいんじゃないの!」とやっぱり言われちゃいました。別に発注額を下げたりなんてしていないんですけど…。他の大工さんも示し合わたように同じ姿勢になったので、いたたまれなくなった私は豚汁のおかわりを断念して茶碗を置き「で、材料は足りてますか?」と言ってみましたが、誰も答えてくれませんでした。